若手医師の提言
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  • 所属:愛知県がんセンター総長
  • 氏名:木下 平 先生
  • 専門分野:消化器外科(胃がん、すい臓がん治療の名医)
  • <経歴>
  • 昭和51年 名古屋大学医学部卒業
  • 平成23年 国立がん研究センター東病院 院長
  • 平成24年4月から現職

がん専門病院での研修の奨め

悪性新生物すなわち“がん”は言うまでも無く、死因、罹患の第一位を占める国民病です。団塊の世代が、がん好発年齢に達し、今後しばらくは患者数が増え続けます。がんの原因は単一ではないため、感染症における抗生物質のような画期的な治療薬の開発は望めません。診断治療における着実な進歩はありますが、まだまだ克服までには時間がかかりそうです。国の政策医療を担う国立がん研究センターを頂点とする、がんセンターと名の付く道、県立の専門施設、がん研有明病院、がん対策基本法により定められた都道府県がん診療連携拠点病院の中でも伝統的にがんの診断治療に実績のある総合病院などで作る全国がん(成人病)センター協議会(全がん協)という組織があり、全国で31施設が加盟しています。最近は大学病院、総合病院の中にがんセンター部門が多く設立されているようですが、実績という点では全がん協加盟施設はがん専門病院と言っても良いかと思います。これらの施設で研修を行えば、短期間に集中してがん医療を体験できます。

私が昨年まで居りました国立がん研究センター東病院のレジデント研修をご紹介し、レジデント研修の心構えについて言及します。
レジデント制度は国立がんセンターの時代1968年に発足し、44年の歴史があります。東病院のレジデント制度もこれを受け継ぐものです。現在は3年のレジデント研修に加え、2年のがん専門修練医(シニアあるいはチーフレジデント)研修もあります。最近は半年の短期レジデント研修も受け入れていますが、国立がん研究センターの教育の根幹は3年のレジデント研修です。中央病院と東病院では、中央がより広くoncology全般を研修するのに対し、東病院では希望するコースの専門家を育成する形になっています。

オリエンテーション、講義などを終え、まず希望のコースの診療科に入ります。外科を例に説明します。スタッフ、先輩レジデントから手ほどきを受け、日常診療に没頭していきます。朝のミーティング、回診、抄読会(ジャーナルクラブ)などを終え、手術に向かいます。手術が終了すれば、検査、カンファランスがあり、夕回診、指示出し、カルテ記載と忙しい毎日になります。入院患者さんを複数の医師で担当します。レジデントは複数いますので、当然受け持ち患者の数には制限がありますが、自分の受け持ち患者さんだけに埋没してはいけません。診療科の全部の患者さんを把握することが重要であり、そういう努力をすべきです。吸収できるものは、貪欲に吸収すべきです。臨床をしていくうちに、その診療グループあるいはスタッフ医師が伝統的に築き上げたやり方(癖といっても良いかも知れません)に遭遇します。常に疑問を持って、それが本当に正しいかを考えてください。先輩レジデントにも相談してみましょう。意外と間違っている常識もあるのです。多くの患者さんを診ている場合、愁訴、検査所見、経過を総合して、どの患者さんの状態が急を要する、すぐ対応しなければならない問題か?事の重要度を見極めることが大事です。多くの場合術後合併症が問題となります。最近は手術手技、術後管理の技術の向上により、合併症の頻度そのものが低くなっています。教科書で見たことがあるが、経験したことが無い合併症も限られた期間では増えてくる可能性もあります。私がレジデントであった時代は、仕事が終わった後、複数の仲間のレジデントと飲みながら食事をし、様々な情報交換をしました。こんな合併症があったという話を聞けば、経験を共有できます。時代とともに業務量が増え、業務も複雑化してきたことで、医師に余裕が無くなり、医局で世間話をする余裕が無くなってきました。他科の先生からの情報や、異なる視点からの意見を聞く機会が失われていくのは残念です。

レジデント研修中は先輩レジデントから学ぶ機会もたくさんあります。是非教え上手になれるように努めてください。教える相手を納得させられるということは、教える側の知識がしっかりしていることを意味します。

受身の研修をするだけでは成果は上がりません。最初の半年のローテーションで自分が興味を持てるテーマを見つけましょう。ある疾患にテーマを定めるのもいいと思います。

例えば肝や膵の嚢胞性疾患、スキルス胃がん、食道胃接合部がんなど、比較的症例数の少ない疾患は入門するのに適しています。術後のドレーン管理や感染防止対策も良いですし、切除術式、再建術式、病理学的なこと、診断学的なこと何でもかまいません。そのテーマに関してはスタッフにも負けないくらいの知識が持てるように、3年間喰らいついて過ごすのです。日常診療のみに没頭することなく、積極的に学会、論文発表にチャレンジしましょう。多くの場合、症例報告から入門します。学会発表は論文発表を前提に行いましょう。

半年の専攻科の研修後は、診断部門(放射線、内視鏡など)、病理部門、化学療法部門、緩和ケア部門、専攻科の周辺の外科部門などを、希望に応じて1年半かけてローテーションします。がんセンターではキャンサーボードを始め、診療科横断的な様々なカンファランス、講演会があり、新たな標的分子の検索、新薬、医療機器開発など、将来のリサーチのテーマ探しには事欠きません。常にハングリーでいることが大切です。テーマは与えられるより、自ら見つけるほうがモチベーションが上がるのは当たり前です。

最後の1年は最初に希望した専攻科に戻ります。これまでに述べてきた心構えを全開して臨みます。永らくレジデント委員長をやっておりましたが、事ある毎にレジデントは常にスタッフをstimulateする存在であって欲しいと伝えて来ました。これまで実際に多くの極めてモチベーションの高いレジデントが来てくれ、巣立っていきました。スタッフも舌を巻く程、多くの英文論文を仕上げた先生もいましたし、自分のアイデアで外科手術手技の意義を問う比較試験のプロトコールを作成し、それがJCOGという全国レベルの組織の試験として採用された先生も、また3年間同じテーマに絞り学会、論文発表を続けてきた先生に原稿依頼が来たこともありました。Poorであった院内感染対策に積極的に関わり、サーベイランスを含めた院内の体制構築に中心的役割を果たしてくれた先生もいました。期間は限られていますがかなりのレベルまで到達できます。この3年の制度の上に積みあがったがん専門修練医制度もありますので、リサーチ論文をまとめればそれが博士論文になる場合もありますし、さらに専門性に磨きをかけることも可能です。多くの卒業生が現在、全がん協のようながん専門病院、大学病院などで重要なポストについています。

多くのがん専門病院の研修制度では、経験を必要とする外科、内視鏡などの技術部門は、ある程度の研修を積んでから来たほうが、より収穫が多いと思います。初期研修が終了してすぐに来られても大丈夫な部署もありますが、前述した技術部門では後期研修終了後に来られたほうが良いと思います。

それぞれの病院で研修システムに多少の違いはありますが、魅力的なカリキュラムが皆さんを待っています。これはもう放っておくわけにはいきません。がんの専門家を目指そうと思った先生はそのキャリアパスの中の選択枝にがん専門病院での研修を是非入れていただくようお願いして、稿を終えます。